718ケイマンの頂点に位置する「GT4」は、新開発のフラット6を搭載した高性能ミッドシップマシン。一方で、アルピーヌの「A110S」は「A110」をベースにさらなる高性能バージョンに仕立てたモデルだ。ここでは、それぞれの走りの個性を探ってみた。
GT4は予想とは違うスポーツカーだった!
718ケイマンGT4は、走りを愛するクラブマンレーサーたちが、いま最も注目するスポーツカーの一台だと思う。エンジンは4Lの排気量を持つ自然吸気のフラットシックスへと先祖返りを果たし、トランスミッションには7速PDKと共に6速MTをも用意する数奇者ぶり。リッター100psを超える420psのパワーに対しては当然のように足腰と空力の性能を高め、最後は「GT4」の役付バッチでそのプレゼンスをも保証するのだから、これでときめくなという方が無理である。
しかしそんなロマンに妄想をかき立てられながら乗り込んだ718ケイマンGT4は、少しばかり筆者の予想とは違うスポーツカーだった。一言でいうと、底が見えないのである。
レザー&アルカンターラのトリムをイエローステッチで引き締めたインテリアは、ポルシェの名に相応しい厳かさで、ドアを閉めた瞬間から独特な世界観が始まる。
普通ならこの圧倒的質感と、低く唸るエンジンサウンド、そしてソリッドな乗り味にノックアウトされてしまうところだが、その雰囲気に気圧されないように注視して走らせると、意外にもその走りはコンサバというか、極めて安定志向に感じられたのだ。
その身のこなしはどこか腰高で、とても重心が低い水平対向6気筒を積んだミッドシップとは思えない。足まわりが固められているのはいい。しかしそのステアバランスまでもが、“これから”という所でミドシップらしいヨーモーメントを、寸止めしているように感じる。
注目のエンジンも、残念なことに自然吸気という選択の有り難みがしゃぶり尽くせない。特に試乗車は6速MTだったこともあるのか、そのギア比が公道ではワイド過ぎ、たとえ2速でも8000rpmのレブリミットまでこれを回しきる機会がなかなか得られなかった。なおかつそこに到達したとしても、高回転でさらに一段弾けるような特性にはなっていない。
とはいえこれが期待外れかといえばそうではなく、むしろ筆者には“底が見えない”という印象を与えた。もっと、行けるはず。スタンダードな状態での718ケイマンGT4は、猫を被っているのではないか? と思い至ったのだ。具体的にはサスペンションのスプリングシートを少し動かしてやるだけで、GT4は化ける。重心を少し下げ、姿勢を前傾させてやるだけで、真の姿を取り戻すような感触があったのである。
GT4というスポーツカーのポテンシャルを遺憾なく発揮できる場所は、サーキット。もはやこのパワーと旋回性能をオープンロードで推し量るのには無理がある。とはいえナンバー付きスポーツカーである以上、それを言い訳に公道での乗り味に一体感を諦めるのかといえば、それは違う。思うにポルシェはこのポテンシャルの高さをして、コンサバなセットで公道の安全を確保したのだろう。718ケイマンGT4の実力は、もう少し向こう側に隠れている。