そのルーツを辿れば1941年に登場したウィリスまで遡り、77年もの歴史を誇るラングラーが11年振りにフルモデルチェンジを受けた。昨今デザインコンシャスなSUVがもてはやされる中で、超硬派系の筆頭格ともいえる“ザ・オフローダー”は、どんな進化を遂げたのか?
外観は伝統を継承、中身は驚くべき進化
ドナルド・トランプ米大統領は、日米貿易交渉の切り札として自動車輸出入の不均衡を取り上げた。直近の関税上乗せは回避されたようだけど、実際に日本車はアメリカに完成車を約170万台(現地生産はもっと多い)が輸出されているのに、アメリカ車は1.3万台くらいしか輸入されていない。でも、アメリカ車にも例外が。それが、ジープなのだ。
何と、2017年はジープだけで1万台以上を販売。ブランド別のランキングでも、ボルボに継ぐ7位につけている。しかも、ジープは2010年以来の販売台数が5.3倍と続伸中だ。今後も販売店数を増やし、2018年には90拠点を目指すという。なるほど、近ごろジープ専売となる外観が黒基調の店舗が目立つようになってきたわけだ。
もちろん、ジープが好調な理由はそれだけではない。主力モデルであるラングラーは、約4割を占めている。つまり、従来型はモデル末期になっても販売面の勢いが衰えなかったということ。実は、日本はアメリカに次いでラングラーが売れている国だという。
なぜそこまで人気があるのかといえば、数あるSUVの中にあって、ラングラーは独自の存在感を放つからだ。ジープそのもののルーツは1941年に誕生したウィリスまで遡り、大戦後にシビリアン・ジープとしてCJに受け継がれ、CJ5などを経て1987年に初代ラングラーが誕生。そして2007年には新世代となる従来型ラングラーが投入されている。
そして2018年、11年ぶりのフルモデルチェンジで上陸したのが新型ラングラーだ。その間、自由・本物・冒険・情熱を掲げるコアバリューは普遍的になり、日本で高い人気を得る理由になっている。まあ、歴史がどうのこうのはさておき、乗用車っぽくない質実剛健なSUVを望む人から評価されている、というハナシもあるけれど。
エクステリアは、まさにジープだ。伝統の7スリットグリルや円形のヘッドライトと角形のテールランプに、台形のフェンダーなどデザイン的なアイコンはそのままでも、ベーシックグレードを除きライト類はすべてLED化。ウインドー類も相変わらず平らなのに、フロントは5.8度寝かせて空気抵抗を低減。アコースティックウインドシールドも採用し、走行音も抑えている。おやっ、何だか新型ラングラーは質実剛健だけが取り得ではないのかも!?
インテリアは、従来型よりもCJの時代を思い出せさる直線基調のデザインに戻ったけれど、クローム仕上げのモールをさり気なくあしらうとか、最上級グレードのサハラにはレザーに手縫いのステッチを入れたトリムを用いるなどディテールはけっこう現代的に。それどころか、Uコネクトを全モデルに装備し、アップルカープレイやアンドロイドオートに接続することさえ可能だ。質実剛健でも、少しも時代遅れではない。

伝統の水平基調のデザインが踏襲されたコクピットまわりは、各スイッチ類も手が届きやすいところに配置されており、使い勝手は良好。タッチパネル式センターディスプレイにはメディ アやスピードメーターなど、100通り以上の情報が表示可能 で、先進的な第4世代のUコネクトシステムが搭載されており、 Apple CarPlayやAndoroid Autoにも対応している。
その証拠に、ボディサイズは従来型よりもひと回り大きくなっているにもかかわらず、車両重量は最大で70kgの軽量化に成功。そのために、フロントのウインドシールドフレーム、ドアパネルとヒンジ、フェンダー、リアのスイングゲートパネルはアルミニウム製、スイングゲートのフレームはマグネシウム製としている。
結果として、従来型と同系となる3.6LのV型6気筒を積むモデルで、ATが5速から8速になったことも効いているが、空力性能の向上と軽量化によりJC08モード燃費が23%改善。さらに、新たに2.0Lの直列4気筒直噴ターボエンジンを積む4ドアのスポーツは30%以上改善。ラングラー最大の課題を解決したわけだ。
それでいて、オフロード性能も強化。4WDには、パートタイム式とフルタイム式を組み合わせたシステムを採用。オフロード性能重視のルビコンには、ローレンジに切り替え可能な副変速機と前後デフのロック機能に加え、スイッチ操作でフロントのスタビライザーを解除する機能も備える。
日本の各地にあるオフロード専用コースくらいの設定であれば、ルビコン専用機能の出番がないくらい新型ラングラーは優れた走破性を発揮してくれる。4WDはパートタイム式の4H(フルタイム式のセンターデフは自動的にロック)を選択するだけで、雨で濡れて見上げるような急坂に刻まれた深いわだちを、モノともせずにグイグイ登る。
ATはDレンジのままで、驚くことにタコメーターに視線を飛ばすとエンジン回転数はわずか1500rpm。このネバリ強さ、やはりタダ者ではない。
しかも、ジープのイメージからするとサスペンションはガチガチに固められていそうだけど実は正反対。前後リジッド式ながらサスペンションをスムーズにストロークさせることで、4輪が路面に追従し駆動力をムダにしないのだ。
オンロードでも快適な乗り心地と静粛性を実現
オンロードでは、このサスペンション設定が不思議な乗り味をもたらす。ラングラーは、ボディ骨格とは別に新型も伝統のラダーフレームを採用する。
ゆえに、現代的なSUVというよりも成り立ちはハッキリいってトラックだ。一般路を走り始めれば、次の瞬間には“やっぱりな”という気持ちになる。ステアリングからは、直進状態の落ち着きが感じられず進路の修正が必要となるからだ。
でも、それは慣れていないためだった。むしろ、クルマ任せにせず修正が当たりまえと思えてしまえば、ステアリングの遊びが大きいわけでもないから応答性が穏やかなだけと納得できる。そうなると、リジッド式はバネ下重量が増えるからサスペンションがバタつく、といった一般常識から無縁でいられることにも驚くし、乗り心地も快適そのものだ。
それに、乗り込んで天井を見上げると、3分割になる着脱式のフリーダムトップが内張りなしにムキ出しになっている。アコースティックウインドシールドまで採用しているのに期待が裏切られたかとガッカリしていたら、走り始めたところでまたまた驚くことに。新型ラングラーは、乗り心地が快適なだけではなく優れた静粛性を実現していたからだ。
試乗車は、直列4気筒エンジンを積むスポーツだったけれど、最大トルクはV型6気筒を超えるので、周囲の流れに乗るだけならアクセルを踏み込む機会はまれ。ペダルに足を乗せる程度、2000rpm前後を保つだけならエンジン音は耳に届かず、周囲の騒音が天井から降ってくることもない。
しかも、オフロードの走破性を重視したパターンがゴツいタイヤを履くにもかかわらず、ウィーンというパターンノイズやゴーッというロードノイズが最小限に抑えられている。こうした騒音の遮断性は、モノコック構造では得難いフレームオンボディ構造ならではの特徴といえる。
さすがに、高度な運転支援装置をフル装備するまでには至らなかったけれど、新型ラングラーは質実剛健でありながら現代的でもあり、走りでは穏やかで優しい一面も実感させてくれた。販売台数の急成長で乗っけから驚かされ、試乗中も感動したり納得したり。
おまけに、最後にもう一度だけ驚かされたのが価格設定だ。ボディサイズは大柄でも、位置づけとしてはミドルSUVに属するとのこと。ところが、価格はドイツ御三家と比べればコンパクトSUVと変わらないのだから。
Specification
ジープ・ラングラー スポーツ
車両本体価格(税込):4,590,000円
全長/全幅/全高[mm]:4320/1895/1825
ホイールベース[mm]:2460
トレッド(前/後)[mm]:1600/1600
車両重量[kg]:1830
最小回転半径[m]:5.3
乗車定員[名]:4
エンジン型式/種類:G/V6DOHC24V
内径×行程[mm]:96.0×83.0
総排気量[cc]:3604
圧縮比:-
最高出力ps(kW)/rpm:284(209)/6400
最大トルクNm(kg-m)/rpm:347(35.4)/4100
燃料タンク容量[L]:66(レギュラー)
燃費(JC08/WLTC)[km/L]:9.6/-
ミッション形式:8速AT
変速比:1)4.714、2)3.143、3)2.016、4)1.664、5)1.285、6)1.000、7)0.839、8)0.667、R)3.295、F)3.454br /> サスペンション形式:前 マルチリンク/コイル、後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/ディスク
タイヤ(ホイール):前245/75R17(-J)、後245/75R17(-J)
ジープ・ラングラー アンリミテッド・スポーツ
車両本体価格(税込):4,940,000円
全長/全幅/全高[mm]:4870/1895/1845
ホイールベース[mm]:3010
トレッド(前/後)[mm]:1600/1600
車両重量[kg]:1950
最小回転半径[m]:6.2
乗車定員[名]:5
エンジン型式/種類:N/直4DOHC16V+ターボ
内径×行程[mm]:84.0×90.0
総排気量[cc]:1995
圧縮比:-
最高出力ps(kW)/rpm:272(200)/5250
最大トルクNm(kg-m)/rpm:400(40.8)/3000
燃料タンク容量[L]:71(レギュラー)
燃費(JC08/WLTC)[km/L]:11.5/-
ミッション形式:8速AT
変速比:1)4.714、2)3.143、3)2.016、4)1.664、5)1.285、6)1.000、7)0.839、8)0.667、R)3.295、F)3.454br /> サスペンション形式:前 マルチリンク/コイル、後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/ディスク
タイヤ(ホイール):前245/75R17(-J)、後245/75R17(-J)